2018.05.10 | 育児
幼少期に育てたい力【第2回】
「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」ではともに、幼児教育において育みたい資質・能力として、「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の5領域をあげています。
力強く自らの人生を歩んでいくために大切なこれらの力と家庭での育み方を、白梅学園大学学長の汐見稔幸さんが解説してくれました。
【第2回】
幼児教育における「5領域」って何ですか?
Q.「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の5領域はどのような視点で選ばれたのでしょうか。
自分自身の「体」、「人」や「もの」との関係をそれぞれ捉え、それらをベースにして構築される思考やコミュニケーションを支える「言葉」の力、内面の世界を豊かに「表現」できる力が5領域です。
しっかり育てられれば、将来どんな仕事に就き、どこで暮らそうと、対応できるという視点で選ばれています。
保育園、幼稚園では、この5領域を指標に子どもの発達をはかります。
各領域には、大切にしたい項目、具体的にどう育てていくかについての方向性は明記されているものの、いつまでにどの程度習得するかは示されていません。
というのも幼児教育は、以前と比べてできるようになった内容とそのプロセスを評価するものだからです。
例えば、「3段まで跳び箱を跳べるようになる」というのは、結果をはかるもの。
跳び箱を跳ぶことのみならず、高い所に興味をもつこと、跳び箱に手をつけるようになること、また「手をつけられたけれど、そのあとの動きがわからない」場合に、誰かに相談できる力。
幼児教育ではこれらすべてを子どもの成長として考えるのであって、跳べたかどうかをはかるわけではないのです。
Q.では、具体的に5領域の冒頭の「健康」とはどのような方向性を示すのでしょうか。
「健康な心と体を育て、自ら健康で安全な生活をつくり出す力を養う」ことを目標にしています。
体と心がどう育っているかに配慮しながら、丈夫な体づくりを目指すのです。
実践としては保育士や教諭といった保育者や友だちと触れ合って安定感をもって行動する、遊びの中で十分に体を動かすことなどがあがってきます。
自発的な活動としての遊びで育まれる健康な心と体は、同じように遊びを通して育まれる自立心や協同性、道徳性や規範意識や思考力を養うこととも深く関わっています。
健康な心と体があってこそ、他の4領域の習得が進むのです。
このように5つの領域は独立するものではなく、重なり合って子どもの人生を支えていきます。
Q.人間同士の触れ合いの場が減少していく中で、「人間関係」のポイントは何になるのでしょう?
端的にいうと、「人と関わることが大好き」という思いを育てることです。
「人間関係」の基本は、信頼関係になります。
その中心には、
①信頼できる保育者との関係があり、
②その周囲に楽しさや喜びといったいろいろな感情を共有する友だちとの関係があり、
③さらにその外に地域社会との交わりが存在しています。
Q.家庭で人間関係の能力を高めるポイントがあったら教えてください。
そのうえで、「どう言ったら、お母さんやお父さんに伝わるだろう」と考えて言葉をさがすようになったら「表現」領域のコミュニケーション力もついてきます。
私の幼い頃のように地域社会の中で子どもたちが成長し非認知能力を伸ばしていった時代と異なり、現在は明らかに家庭の重要度が上がっています。
だからといって、自分の頭で考える能力など人間としての資質も社会性の習得も家庭での教育にかかっているとしたら、それは非常に大変なことです。
そこでまずは、子どもの話を聞いて、共感してあげ、子どもが自分で考える力をつけていけるようにしていくことが大切です。